超伝導ナノワイヤ シングルフォトンカウンタの原理
超伝導ナノワイヤ シングルフォトンカウンタ(単一光子検出器)は、
絶対零度付近で電気抵抗が 0 (ゼロ) になる超伝導材料を使用したシングルフォトンカウンタです。
その原理は、半導体(アバランシェフォトダイオード)シングルフォトンカウンタと全く異なり、
深紫外から、中赤外まで半ば広い波長範囲に感度を持ちます。
特に通信波長帯ではアバランシェフォトダイオードよりも、検出効率、最大計数率(カウントレート)、
暗計数率(ダークカウントレート)、ジッタ、など多くの点で優れています。
この優れた特性を生かして、近年、量子暗号通信、量子光学基礎実験 などに数多く利用され、
大きな研究成果を挙げています。
目 次
- 1. 超伝導ナノワイヤ
- 4. クライオスタット(冷凍機)
- 2. バイアス電圧特性
- 5. 光子数計測(Photon Number Resolving)
- 3. 波長依存性
1. 超伝導ナノワイヤ
超伝導材料からなるナノワイヤに、絶対零度付近で電流を流します。
そこに光子が入射すると、その部分に超伝導状態が壊れた領域(ホットスポット)が生じます。
超伝導ナノワイヤにバイアス電流を十分に印加した状態では、このホットスポットの発生を引き金にして、
その周囲の超伝導電流密度が臨界温度(この温度以上では超伝導状態が壊れる)を越えて、
ナノワイヤ全体の超伝導状態が壊れます。
このためナノワイヤに数 kΩ の抵抗が発生して、バイアス電流は迂回ルートの負荷 50Ω 側を流れます。
これがホットスポット周辺のジュール熱を基板に拡散させることにつながり、
ホットスポット周辺は超伝導状態に変わり、バイアス電流が超伝導ナノワイヤを流れる最初の状態戻ります。
光子を受光するごとに、超伝導ナノワイヤの両端の電圧は上昇します。
この電圧上昇のパルスを測定することで、光子を検出することができます。
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図1. 外観 | 図2. 動作原理 |
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図3. 等価回路 | 図4. 時間応答 |
2. バイアス電圧特性
光子のシステム検出効率(SDE)はバイアス電圧に直線的に比例し、ある値以上になると、ほぼ横ばいになります。
ダークカウントレート(DCR)はバイアス電圧に指数関数的に比例してある値以上になると、ほぼ横ばいになります。
バイアス電圧を調整することによって、システム検出効率とダークカウントレートを最適な比率に設定することができます。
図5. システム検出効率、ダークカウントレートのバイアス電圧依存性
3. 波長依存性
超伝導ナノワイヤシングルフォトンカウンタは、検出効率の波長依存性は非常に小さくなります。
さまざまな波長の光子を同時に扱う実験にも強みを発揮します。
ある 1 波長に合わせて構造を最適化することにより、それぞれの波長で最高の性能を引き出すことができます。
図6. システム検出効率の波長依存性
4. クライオスタット(冷凍機)
超伝導ナノワイヤは絶対零度付近で動作させるため、クライオスタット(冷凍機)が重要役割を担います。
ディテクタを 0.8K に安定して保持するため、その前段階に 40K の予備冷却領域を設けています。
これが高い温度安定性を確保することにつながり、Latch Free (システム動作の中断を防ぐ) を実現しました。
Latch Free は、長時間の連続動作には欠かせない特長で、これによって終夜にわたるタフな実験が初めて可能になります。
図7. クライオスタットの構造
5. 光子数計測(Photon Number Resolving)
通常の超伝導ナノワイヤシングルフォトンカウンタは、光子が入射したタイミングを計測しますが、
光子が何個入射したかは、測定できません。
しかし、光子数を計測したいというご希望は多く、それに応えるために、新たに開発したのが
PNR (Photon Number Resolving) SNSPD(光子数計測超伝導ナノワイヤシングルフォトンカウンタ)です。
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図8. PNR (Photon Number Resolving) の概略構造図 | 図9. PNR (Photon Number Resolving) の測定出力 |