概要
ペロブスカイト太陽電池や光検出器をはじめとする新世代の光電変換材料では、欠陥準位、イオン移動、界面電荷蓄積などの微細な電気的現象を高感度に解析することが求められています。Zurich Instruments のロックインアンプおよびインピーダンスアナライザは、DLTS(深準位遷移分光)・EIS(電気化学的インピーダンス分光)・光変調測定などの高度な手法を実験室レベルで容易に実現し、世界中の研究機関で活用されています。
以下では、Zurich Instruments の計測機器が実際のペロブスカイト研究でどのように使われているかを示す代表的な事例を紹介します。
研究事例一覧(9件)
1. Local time-dependent charging in a perovskite solar cell
概要
ペロブスカイト太陽電池断面における局所的な電荷蓄積とその時間変化を、FM-KPFM を用いて解析。
計測手法/装置
HF2LI ロックインアンプを用いた FM-KPFM(周波数変調ケルビンプローブ力顕微鏡)により、断面の接触電位差(CPD)分布とその時間発展を計測。
成果
界面ごとの充電ダイナミクスの違いを可視化し、ヒステリシスには複数の過程(イオン移動+トラップ)が関与することを示した。
2. Probing the ionic defect landscape in halide perovskite solar cells
概要
ペロブスカイト太陽電池内部で問題となるイオン欠陥の「量・分布・動き」を、 実験的に詳細マッピングした研究。 ペロブスカイト材料はイオンが動きやすいことが知られており(過去の理論研究でも指摘)、その実態を定量化することが本研究の目的。
計測手法/装置
MFIA インピーダンスアナライザにより、広帯域(Hz〜MHz)での複素インピーダンスを取得。 低周波領域に現れる“イオン移動由来の応答”を分離することで、欠陥の種類・分布・反応速度を抽出している。 温度依存インピーダンスや局所応答解析も組み合わせ、欠陥挙動を多角的に評価。
成果
欠陥の濃度や分布の不均一性がデバイス性能に直結することを定量的に示し、ペロブスカイト材料の劣化・安定性問題の理解を大きく前進させた。 また、「どの位置に、どの時間スケールで欠陥が動くか」という“電気的地形図(landscape)”を提示したことで、材料設計(空孔制御・組成最適化)に具体的な指針を提供した。
3. Visible Light Communication system using an organic emitter and a perovskite photodetector
概要
有機発光体とペロブスカイト光検出器を組み合わせた高速通信系の実証。
計測手法/装置
UHFLI ロックインアンプで変調信号応答を測定。
成果
MHz帯域の応答遅延を解析し、高速光通信への応用可能性を実証。
4. Reconfiguration of interfacial energy band structure for high-performance inverted structure perovskite solar cells
概要
反転構造ペロブスカイト太陽電池の界面バンド構造を制御し、キャリア抽出効率を改善。
計測手法/装置
MFLI ロックインアンプによる光変調電流測定。
成果
界面設計が電荷輸送非対称性に与える影響を定量的に評価。
5. Low-Frequency DLTS of Perovskite Solar Cells
概要
ペロブスカイト太陽電池の深準位トラップを低周波領域で解析。
計測手法/装置
MFIA インピーダンスアナライザで DLTS 測定を実施。
成果
従来手法では観測困難な低速トラップ応答を検出し、材料品質評価に寄与。
6. Spatially-resolved fluorescence-detected two-dimensional electronic spectroscopy probes varying excitonic structure in photosynthetic bacteria
概要
超高速 2D 電子分光(2DES)に空間分解能力を組み合わせることで、励起子構造の空間的不均一性を可視化した研究です。これにより、局所環境の違いが励起子ダイナミクスやエネルギー移動にどのように影響するかを直接評価できます。ペロブスカイトなど不均一性を本質として持つ材料にも応用可能なアプローチです。
計測手法/装置
UHFLI ロックインアンプを用いた高位相安定の変調検出により、複数周波数で変調された 2DES 信号を高S/N で抽出。空間分解 2DES の計測に必要な周波数精度と位相安定性を確保し、局所的な励起応答を忠実に再現できるデータ取得を実現しています。
成果
従来の面平均測定では埋もれてしまう励起子状態のばらつきやコヒーレンス特性を、局所領域ごとに分離して評価することに成功。複雑な光合成システムの電子励起構造を明確化するとともに、この手法がペロブスカイト材料などの不均一材料研究においても有効であることを示しました。
(補足)空間分解 × 2DES の意義
空間分解 2DES では、フェムト秒〜ピコ秒パルスレーザーによって生じる超高速の励起ダイナミクスを、場所ごとに取得します。UHFLI は複数の変調周波数成分を高い位相安定性で検出できるため、空間ごとの励起応答を高S/Nで再構成するための信頼性の高い検出基盤となります。
7. Fast Yet Quantum Efficient Few-Layer Vertical MoS₂ Photodetectors
概要
MoS₂ を用いた高速光検出器の性能解析を行い、GHz 級の高速応答を実証した研究です。本事例はペロブスカイトを対象としたものではありませんが、光変調応答をロックイン手法で高精度に評価するという計測アプローチはペロブスカイト光検出器にも共通して利用できるものです。
計測手法/装置
UHFLI ロックインアンプを使用し、高周波変調で励起された微弱信号を高S/N で検出。広帯域ロックインの特性を活かして、光デバイスの高速応答を周波数依存で精密に解析しています。このアプローチは、ペロブスカイト系を含む次世代光検出デバイスの速度評価にも直接応用できます。
成果
MoS₂ を用いた縦型フォトディテクターが、高い量子効率と GHz クラスの応答速度を両立できることを示し、高速光電子デバイス設計の指針を提供しました。特に「高速変調 × ロックイン検出」という手法の有効性を示した点が、ペロブスカイト材料研究においても参考になります。
8. Winners of the Student Travel Grants 2020
概要
Zurich Instruments が実施する Student Travel Grant において、ペロブスカイト太陽電池の欠陥解析をテーマとした学生研究が受賞した事例です。DLTS やインピーダンス分光といった高度な計測手法が、大学・研究室レベルでも活用されていることを示す好例です。
計測手法/装置
受賞研究では MFLI ロックインアンプおよび MFIA インピーダンスアナライザが用いられ、ペロブスカイト太陽電池の深準位解析や界面応答評価が実施されました。学生による研究でも、高精度な電気計測が実現できることを示しています。
成果
ペロブスカイト材料の欠陥挙動を DLTS とインピーダンス計測から多角的に評価し、デバイス特性との関係を明確化した点が評価されました。若手研究者の取り組みにおいても、Zurich Instruments の高感度計測が有効であることを裏付けています。
9. Zurich Instruments Test & Measurement Newsletter – Edition Q3/2021
概要
このニュースレターでは、ペロブスカイト太陽電池を含む先端材料研究における Zurich Instruments 製品の活用例がまとめられています。DLTS、インピーダンス分光、光変調計測など、複数の事例を通じて ZI 製品の計測精度と柔軟性が紹介されています。
計測手法/装置
MFIA インピーダンスアナライザや MFLI ロックインアンプを中心に、ペロブスカイト材料の欠陥解析、イオン移動評価、界面応答解析などに適用された計測手法が取り上げられています。実験環境に応じて多様な測定タスクを統合できる点が強調されています。
成果
ペロブスカイト太陽電池における欠陥ダイナミクスや界面プロセスの理解を深めるうえで、Zurich Instruments の計測機器が標準的な研究基盤となりつつあることを示しています。また、その他の材料・デバイス研究でも ZI 製品が広く採用されている状況が紹介され、同社の計測プラットフォームの応用範囲の広さが示されています。
Zurich Instruments の計測ソリューションは、ペロブスカイト研究における欠陥解析・界面評価・安定性検証のあらゆる段階で活用されています。
DLTS、インピーダンス分光、光変調応答など、多様な電気計測を高精度に統合できる Zurich Instruments の機器は、ペロブスカイト材料研究の標準的プラットフォームとして位置づけられています。
ペロブスカイト研究に適した製品はこちら
- MFIA|インピーダンスアナライザ(EIS / DLTS)
- MFLI|ロックインアンプ(光変調・電流応答)
- HF2LI|ロックインアンプ(FM-KPFM / 周波数変調)
- UHFLI|広帯域ロックインアンプ(2DES / 高速応答)
ペロブスカイト材料の欠陥解析・イオン移動評価・光変調測定など、 本ページで紹介した計測手法に対応する Zurich Instruments 機器の一覧です。
技術資料
MFIA をペロブスカイト研究で活用する際のイメージを、簡潔にまとめた資料です。
計測の流れを把握したい方にご覧いただけます。
ペロブスカイト研究での計測手法や最適な構成について、用途に合わせてご提案します。
