最先端のレーザ加工

現在のレーザ加工においては、高出力の炭酸ガスレーザや Yb ファイバレーザ照射に代表される熱加工と、
ピコ秒以下のパルス幅で高強度の照射を繰り返す事により、
対象物に残存する熱による変質やデブリの発生を無くする非熱加工に大別されています。
しかし、何れの分野においてもこれまで難しかった材料に対して、
新しいレーザや新しい手法を用いる事により可能となってきています。

1. 新しいレーザ熱加工(レーザ溶接)

熱レーザ加工は、一般的に加工対象に比較的長い時間吸収させてその温度を上昇させて液状 或いは、
気体にして照射部を除去する加工です。
レーザ加工の中でも溶接は他の金属加工と異なり溶かして再凝固させる作業です。
従来の金属加工で使われていたレーザの転用では、溶接で一番の問題となっているスパッタの発生を抑える事は出来ませんでした。
最近の2次電池の需要の拡大や EV の普及により銅の溶接の重要性が高まる中、
高出力化してきた青色半導体レーザによるレーザ溶接が始まっています。


  純銅の波長吸収曲線拡大 モータのヘアピンクリップ溶接
  純銅の波長吸収曲線 モータのヘアピンクリップ溶接

更に輝度をさらに高めた NUBURU 社 AI シリーズなどの開発により、スキャナによるレーザビームの走査が可能となりました。
このことは金属床にビームをスキャンして、立体の金属造形を完成させる金属 3D プリンタの開発を大きく推し進めています。


  スキャナと fθレンズのシュミレーション 3D プリタによる金属造形
  スキャナと fθレンズのシュミレーション 3D プリタによる金属造形


2. 新しい非熱加工(フェムト秒レーザ加工)

これまでの非熱レーザ加工は多くの場合、デブリや熱による変質・変色を避ける為に、比較的高い繰り返しが早く(IMHz 程度)、
1パルスあたりのエネルギの小さいピコ秒程度パルス幅を有するレーザを用いた場合に、そう呼ばれていました。
しかし、加工対象の吸収率が高い波長に調整したピコ秒レーザを照射しても熱影響が残ったり、
クラックが入ってしまうケースが散見されていました。
こうした場合には、更にパルス幅の短いフェムト秒のレーザ照射が有効です。

最新のフェムト秒レーザはオールファイバでコンパクトになっており、パルス幅も最短の 200 フェムトから 20 ピコ秒まで可変です。
繰り返しもエネルギも可変出来る様になっていますので、理想的な非熱加工用のレーザとなっています。


  フェムト秒ファイバレーザの構成 金属表面撥水加工
  フェムト秒ファイバレーザの構成 金属表面撥水加工

ファイバレーザの基本発振波長である 1030nm の基本波は2倍波や3倍波に変換する必要も無く、
透明材料に直接して加工を行う事が出来ます。


  薄板ガラス微細穴あけ ガラス溶接
  薄板ガラス微細穴あけ ガラス溶接

この新しいレーザは、従来の非熱加工に加えてピコ秒照射のプロセスでは見られなかった、
2光子や多光子吸収による変化も期待されます。


3. レーザ照射方法

レーザ加工を実現するには、適切なレーザを選定するのは勿論の事、そのレーザ光を加工対象に対して適切な条件で
入射する必要があります。
ここでは、レーザ照射方法としてガルバノスキャナと f-θ レンズ、及び レーザ加工ヘッドについて簡単に解説します。

ガルバノスキャナと f-Theta レンズ

ガルバノスキャナ(以下スキャナ)は、ガルバノモータでミラーを駆動してレーザビームを走査するユニットで、
レーザビームの高速走査とレーザ接続が簡単に出来る事が特長です。

一般的なスキャナには、PC 内、もしくは接続されたコントローラと PC 上のソフトウェア、電源、
及びスキャナヘッドで構成されています。各種レーザとの接続が簡単にでき、
加工パターンを専用ソフトで描画するほか、CAD 図面から読み出して描画することも可能です。
スキャナは、f-θ レンズと組合せて2次元平面上に照射するだけでなく、ガルバノ前段に配した
2枚以上のレンズの間隔を変更することにより、焦点位置を変え3次元平面上に集光することも可能です。

  1. ガルバノスキャナの選定

    スキャナには、大きく分けて2次元加工用の 2D スキャナと3次元加工ができる 3D スキャナの2種類が有ります。
    2D スキャナには f-θ レンズが必要となりますが、スキャンエリアが広い場合は f-θ レンズが大型になるため
    収差と高価格により、3D スキャナの方が安価で良い集光性能が得られることがあります。
    ただし、3次元加工でも深堀加工を要求された場合には、Telecentric f-θ レンズを使用した 2D スキャナと
    Z 軸ステージの組合せ、若しくは f-θ レンズが使用可能な 2.5D スキャナを選定すべき場合があります。

    高出力レーザを用いるには、スキャナの冷却が必要で、500W(CO₂ レーザの場合 200W)を超える場合には
    水冷が 2kW を超える場合は更にドライエアでの空冷も必要になります。
    また、スキャナのミラーは、入射する波長に適したコーティングがされていますが、コーティングの強度も
    母材に依存しますので、用途に合わせた選定が必要になり、汎用の SI(シリコン)、高耐力の QU(石英)の他、
    軽量高速対応の SiC(シリコンカーバイド)やブロードバンド波長対応の AG(銀コート)が有ります。

    スキャナのサイズ(開口径)は、レーザ出力及び集光径により選定され、
    レーザ出力が大きければスキャナサイズは勿論大きくなり、集光径は入射ビーム径が大きくなれば小さくなります。
    ただ、スキャナサイズが大きくなるとミラー間隔が広くなるため、スキャンエリアが小さくなります。
    更に、スキャナにはアナログタイプ(16bit)とデジタルタイプ(20bit)があり、
    前者は安価、後者は高分解能・高精度の特長があります。


      2D スキャナ 3D スキャナ
      2D スキャナ 3D スキャナ
  2. f-θ レンズの選定

    2D スキャナには、f-θ レンズが必要になります。
    f-θ レンズは、ビーム入射角の移動量と集光点での移動距離が比例する様に設計されたスキャナ専用の集光レンズで、
    照射点に垂直照射するテレセントリックと角度を持って入射する非テレセントリック(標準)に分類されます。

    f-θ レンズの選定に関しては、

      レーザ出力 :熱レンズ効果が発生するか?レンズ材料選定
      パルス or CW :パルスレーザの場合、パルス対応を選定
      パルスエネルギとパルス幅 :ピークエネルギの耐性が十分か?
      テレセントリックの要否 :テレセントリックが必要か?
      集光径とスキャンエリア :f-θ レンズの焦点距離
      ワーキングディスタンス :上記集光径とスキャンエリアに加え選定材料
    の情報で希望に合った f-θ レンズを選定しますが、スキャナとレーザの性能により
    データシート通りの性能が得られるかの確認が必要になります。

    f-θ レンズの選定

4. レーザ加工ヘッド

レーザ加工ヘッドは、レーザ光を集光するレンズとアシストガスを噴射する加工ノズル及びレーザ光を
照射するための調整機構を有していますが、走査機構を持たないので XYZ テーブルと組み合わせるか、
多関節ロボットに取り付けて用いられます。

よって、スキャナと比較すると走査速度が遅くなるので、主にはレーザ光を熱として使用する加工で採用されてます。
またレーザ光の照射位置にアシストガスの噴射が可能なので、照射光学系の保護、加工対象の冷却、
材料の酸化防止及び溶けた材料を吹き飛ばす(切断加工時)等の加工補助機能を持つことが出来ます。