パラメーター解読の極意
~ Coherent 特殊光ファイバーの暗号を読み解く ~

これを読めば、あなたもファイバー選定のプロになれる

Coherent(旧Nufern)社の特殊光ファイバーは、型番(SKU)とは別に、パラメーターを持っています。(多くの製品はSKU=パラメーターです)。
このパラーメータは、一見すると英数字の羅列に見えますが、実は「スペックの履歴書」そのものです。
パラメーターのルールさえ理解してしまえば、データシートを開かなくても、
そのファイバーが「何のために作られ、どんな性能を持っているか」が手に取るように分かるようになります。

今回は、業界標準とも言えるCoherent(旧Nufern)のパラメーター命名ルールを解剖し、その奥深い世界へご案内します。



基本構造:型番は「4つのブロック」でできている

最も代表的な「アクティブファイバー(増幅用)」を例に、型番の解剖図を見てみましょう。 例として、最強の定番モデル PLMA-YDF-20/400-M を分解します。

光ファイバーのパラメーターの基本構造

この4つのブロックを左から順に読み解くだけで、ファイバーの正体が判明します。


① 導波構造のパラメータ

まず、ファイバーの「性格」を決めます。最初のアルファベットは、そのファイバーが「光をどう運ぶか」という構造を表しています。
基本構造から応用へと進化する順に見ていきましょう。

Basic (基本構造)

SM (Single Mode):シングルモード

コアが真円形状で構成された、最も標準的かつ汎用性の高いシングルモードファイバーです。特定のカットオフ波長以上において、理論的に単一の基本モード(LP01)のみを伝搬するように設計されています。偏波保持機能を持たないため、偏光状態の制御が不要な一般的な光通信やセンシング、または低出力レーザーの種光源として広く利用されており、全ての特殊ファイバーの基礎となる存在です。

PM (Polarization Maintaining):偏波保持

SMファイバーのコアの両脇に「応力付与部(SAP)」を配置し、強力な複屈折率を持たせたモデルです。コアに物理的な応力をかけることで、入射した直線偏光の状態を乱すことなく長距離伝送することが可能です。断面に二つの円が見える「PANDA型」構造が一般的で、高い偏光純度が求められるレーザー加工機、干渉計測、周波数変換システムなど、プロフェッショナルな用途で標準的に採用されています。


High Power (高出力用・LMA)

LMA(Large Mode Area):大口径コア・低NA

kWクラスの高出力レーザーを実現するために開発された特殊設計です。コア径を通常の数倍(20μm以上)に拡大することで光のパワー密度を分散させ、熱損傷や非線形光学効果の発生を抑制します。低NA設計により、使用時にファイバーを適切に曲げる(コイリングする)ことで不要な高次モードを外部へ放射させ、大口径でありながら実質的に理想的なシングルモードビームを得ることが可能です。

PLMA (Polarization Maintaining LMA):偏波保持・大口径

LMA(大口径)構造にPM(偏波保持)機能を完全統合した、現代のハイパワーレーザーにおけるフラッグシップモデルです。太いコアで強大なエネルギーを受け止めつつ、パンダ型応力付与部が偏光状態を強力に維持します。金属の精密切断や微細加工、波長変換プロセスなど、「高出力」かつ「高ビーム品質」、そして「偏光安定性」の全てが同時に求められるハイエンドなアプリケーションに不可欠です。

XLMA(Extra Large Mode Area):超大口径コア

LMAの限界をも超える、50μmから100μm以上の超巨大コアを持つ特殊モデルです。ピークパワーが極めて高い超短パルスレーザー等において、ビーム品質を落とさずに非線形光学効果(SRS/SBS)を極限まで抑制します。その太さゆえに柔軟性は低く、時にはロッド(棒)状の形態で使用されることもあります。物理的な限界に挑み、最大のパルスエネルギーを取り出すための究極のツールです。


Delivery(伝送)

MM (Multimode):マルチモード・大口径・高NA

多数のモード(光の通り道)を同時に伝搬させる汎用的なマルチモードファイバーです。レーザーシステムにおいては、主にLD(レーザーダイオード)からの励起光をコンバイナまで運ぶ「ポンプ導光用」として多用されます。また、温度分布計測やイメージングなどのセンシング用途にも広く使われ、ステップインデックス型だけでなく、通信用に近いグレーデッドインデックス型など、用途に応じた多彩なプロファイルが存在します。

BD (Beam Delivery):導光専用設計

レーザー発振器から加工点へ、高エネルギーを損失なく送り届ける「デリバリー(伝送)」専用のファイバーです。コア径50μmから1mm超の大口径ステップインデックス構造が主流で、ビーム品質よりもエネルギー輸送効率と耐久性を最優先します。過酷な産業環境での使用を想定し、強力な反射光や熱負荷に耐えうる特殊なコーティングやガラス設計が施されており、切断・溶接ヘッドへの最終接続用として不可欠な存在です。


特殊機能・コンポーネント用

PS (Photosensitive)

コアにボロンやゲルマニウムを共添加し、紫外光(UV)に対する感度を極限まで高めた「感光性」ファイバーです。通常のファイバーでFBG(グレーティング)を作る際に必要な高圧水素処理(増感処理)が不要となり、製造時間の短縮とグレーティング特性の長期安定性を実現します。ファイバーレーザーの共振器ミラー製造に必要とされる特殊グレードです。

GR (General Reliability)

FBGの書き込みや光部品のピグテール用に、コアの真円度や屈折率プロファイルを厳密に管理したモデルです。PSほどの超高感度は持ちませんが、接続損失の低さと機械的な信頼性が重視されます。
通信用フィルターやセンサーーなど、安定した光学特性が求められるコンポーネント製造のベースとなるファイバーです。(※GFシリーズとして分類されることもあります)

GI (Graded Index)

コアの屈折率分布が中心から外側に向かって放物線状に連続的に変化する「グレーデッドインデックス」型です。
通常のステップインデックス型に比べてモード分散(光の到達時間のズレ)が劇的に抑制されるため、高速・大容量の信号伝送に適しています。また、センサー用途や、ビーム品質を維持したまま光を転送するレンズのような役割でも利用されます。


② タイプ:組成と機能のパラメータ

次にファイバーの「役割」を決めます。ハイフンの後ろの記号は、コアに何が添加されているか、
あるいは「どうやってシングルモードにするか」という設計思想が記されています。ここが読み解けると、玄人です。

アクティブファイバー(増幅用)

基本ドーパント(1μm / 1.5μm帯)

YDF (Ytterbium Doped)

イッテルビウム(Yb)を添加した、1μm帯ファイバーレーザーの王道とも言える増幅媒体です。高い光変換効率と熱特性を持ち、金属切断やマーキング用途で圧倒的なシェアを誇ります。シングルモードから数kW級のマルチモードまで、産業界で最も標準的に利用されているアクティブファイバーです。

EDF (Erbium Doped Fiber)

エルビウム(Er)を単独添加した、光通信波長帯(Cバンド/Lバンド)における増幅媒体の基礎です。主に低〜中出力のEDFA(光増幅器)や、超短パルスレーザーの種光源として使用されます。EYDFのような高出力性よりも、信号の品質や利得平坦性が求められる通信インフラの要です。

EYDF (Erbium/Ytterbium Co-Doped Fiber)

エルビウム(Er)とイッテルビウム(Yb)を共添加したモデルです。Ybが吸収した励起エネルギーをErへ移動させることで、Yb単独添加では難しい1.5μm帯の高出力化を実現します。長距離通信の光増幅器や、アイセーフ波長が必須となるLiDAR、自由空間通信などの光源として不可欠です。

NDF (Neodymium Doped Fiber)

ネオジム(Nd)を添加した、主に1060nm帯での発振を目的とするファイバーです。Yb添加ファイバーと動作波長は近いですが、3準位系を含む準位構造の違いにより、特定の分光分析や医療用途など、Ybでは代替できない特殊なスペクトル制御が必要なシーンで選定されます。

特殊波長・中赤外用(2μm帯~)

TDF (Thulium Doped Fiber)

ツリウム(Tm)を添加した、2μm帯(アイセーフ)を発振するファイバーです。水分への吸収率が高い波長特性を利用し、結石破砕などの医療用レーザーや、特定のガスセンシング、プラスチック加工などに用いられます。790nm帯のLDで励起が可能で、高効率なシステム構築が可能です。

HDF (Holmium Doped Fiber)

ホルミウム(Ho)を添加したモデルで、Tmよりさらに長い2.1μm帯での発振が可能です。大気伝搬特性に優れるため防衛用途で重宝されるほか、医療用としても組織への侵入深さを制御する目的で使用されます。Tmファイバーレーザーで励起する共鳴励起方式が一般的です。


パッシブ・機能性ファイバー(導光・部品用)

整合・導光用

GDF (Germanium Doped Fiber)

コアにゲルマニウム(Ge)を添加し、YDFやEDFなどのアクティブファイバーとコア/クラッドサイズ・NAを一致させた「整合用」ファイバーです。融着接続時の損失を最小限に抑える設計となっており、増幅器の前段・後段につなぐ導光用ファイバーとして、最も基本的かつ重要な役割を担います。

GSF (Germanium Select Cutoff)

アクティブファイバーの中でも、カットオフ波長を厳密に制御した「Select Cutoff系(YSF/TSF)」と整合するように設計されたパッシブファイバーです。通常のGDFでは対応できない短波長側のモード特性を合致させており、基本モードの品質維持が最優先される微細加工用光源などに必須です。

部品製造・FBG用

PS (Photosensitive)

コアにボロン等を共添加し、紫外光(UV)に対する感度を劇的に高めた特殊ファイバーです。レーザーの共振器ミラーとなるFBG(ファイバーブラッググレーティング)を短時間で書き込むことが可能です。水素増感処理の手間を省き、量産性と特性安定性を向上させるために開発されました。

例外:タイプ表記がない場合

MM / BD シリーズ(Step Index / Graded Index) MM-S105/125 のように、タイプ(ドーパント名)が省略される製品があります。これらは特定のアクティブファイバーとの化学的な整合を必要とせず、単にパワー伝送を行うためのファイバーです。ドーパント名の代わりに、直後の数値の前に S(Step Index) G(Graded Index) という文字が付き、屈折率分布を示しているのが特徴です。


③ ジオメトリ :物理寸法の数値

接頭辞とタイプで「性質」が決まったら、次は物理的な「サイズ」です。
数値は 「コア径 / クラッド径」 の順で、マイクロメートル(μm)単位で表記されます。

基本ルール

サイズの一致が命 型番の中央にあるこの数字(例:20/400)は、ファイバー選定において最も妥協が許されない部分です。
アクティブファイバーとパッシブファイバーを接続する際、このコア径とクラッド径が物理的に一致していなければ、
重大な光損失や接合部の発熱(バーニング)を引き起こします。
「20/400には、20/400をつなぐ」、これが大原則です。

読み方の例

10/125: コア10μm、クラッド125μm。通信用ファイバーと同じ外径で、取り回しが容易な標準サイズです。

20/400: コア20μm、クラッド400μm。kW級の高出力レーザーで主に使用される、コア・クラッド径ともに大きい産業用レーザー規格です。

25/250:コア25μm、クラッド250μm。高出力パルスかつ、400μm径(*)よりもファイバーコイリングの際の柔軟性が求められるケースで選ばれます。

注意点:比率から読み取る

50/400(XLMA)や 100/360(LMA)のように、コアに対してクラッドが相対的に小さい場合や、逆に大きい場合は、
それぞれ「大口径ビームの維持」や「励起光の高密度結合」など、特殊な設計意図が含まれています。数字の比率を見るだけで、
そのファイバーの用途の特殊性を推測できるようになります。

ジオメトリにつく「S」と「G」の正体

マルチモードファイバーの型番(例:MM-S105/125)において、コア径の直前にあるアルファベットは、 コアの屈折率分布(プロファイル)を表しています。

S (Step Index)

コアの屈折率が均一な「ステップインデックス型」。光のパワー密度が均一になりやすく、ハイパワー伝送や
加工用に適しています。CoherentのLMA/MMファイバーの主流です。

G (Graded Index)

中心から外側へなだらかに屈折率が下がる「グレーデッドインデックス型」。通信や画像伝送など、
信号の品質(帯域)を重視する場合に使われます。


④ 品質・形状・被覆のパラメータ

最後のハイフンの後ろにあるアルファベットは、プロフェッショナルがこだわる「微調整」と「特殊仕様」を表します。

品質グレードと形状(Quality & Geometry)

シングルモードやLMAファイバーで最もよく使われるコードです。

-M (Precision Matched)

【精密整合】 最も重要です。コア・クラッド径の製造公差を極小(±0.5μmレベル)に抑えたグレード。アクティブファイバーとの融着接続損失を最小化するため、kW級レーザーでは標準的に採用されます。

-XP (Extra Performance)

【超高性能】 HPよりさらに厳しい公差管理と、巻き取り時のストレス低減を行った最上位グレード。ジャイロ(FOG)や極めて繊細な干渉計測などに用いられます。

-STN (Standard)

【標準】 特別な公差詰めを行わないベーシックモデル。主に低コストなパッシブファイバーや、初期の製品群に見られます。

-8 (Octagonal)

【8角形クラッド】 クラッド断面を8角形にしたモデル。円形に比べてモードミキシング効果が高く、励起光の吸収効率を向上させます。non-PMかつYb等がドープされたダブルクラッドファイバのみにこのクラッド形状は採用されています。

-VIII (Generation 8)

【第8世代】 Yb添加ファイバー(YDF)の最新世代を示します。高出力動作時に効率が低下する「フォトダークニング(光黒化)」への耐性が極限まで高められています。


マルチモードの解読ルール(NA & Coating Code)

マルチモードや導光用ファイバー(MM/BD)では、末尾が「数字+文字」になっているものが多数あります。
これは個別の型番ではなく、 [ NA値 ] と [ 被覆の種類 ] を組み合わせたパラメータです。

数字部分 [ NA値 ]

  • 10: NA 0.10
  • 15:NA 0.15
  • 22: NA 0.22
  • 30: NA 0.30

文字部分 [ 被覆の種類 ]

  • A (Acrylate):標準的なアクリレート被覆(シングルクラッド)。
  • FA (Fluoroacrylate):低屈折率ポリマー被覆(ダブルクラッド用)。励起光を閉じ込めるクラッドとして機能します。
  • S (Silicone):シリコーン被覆。FAよりもさらに高いNAが必要な場合や、耐熱性が必要な場合に使われます。

解読例: MM-S105/125-22FA とは?
「コアNAが0.22」で、「フルオロアクリレート(FA)」で被覆された、ダブルクラッドのマルチモードファイバー


特殊コーティング・被覆(Special Coatings)

通常、何も記載がない場合は標準的なアクリレート被覆ですが、特定の環境下では以下のサフィックスがつきます。

P / 20P (Polyimide) 【ポリイミド:耐熱300℃・高感度歪み検知】

標準的なアクリレートが燃え尽きる300℃の高温下でも動作する、耐熱被覆の最高峰です。また、被覆が硬くガラスと強固に密着しているため、外部の振動や変形をダイレクトにコアへ伝える「歪み伝達特性」に優れています。
DAS(音響センシング)やDSS(歪みセンシング)には不可欠なコーティングです。20Pは厚さ20μm以下の薄膜仕様を示します。

C / CP (Carbon / Carbon + Polyimide) 【カーボンコート:耐水素・長期寿命】

ガラス表面にカーボン層を蒸着し、アクリレートやポリイミドで保護した構造です。石油・ガス井戸(ダウンホール)や海底ケーブルで発生する水素ガスの侵入をカーボン層が完全に遮断します。水素による伝送損失の増大(水素黒化)を防ぎ、通常では数日で劣化する環境下でも、数十年の寿命を担保します。

HTA / MTA (High Temperature Acrylate) 【高温アクリレート:耐熱150℃・DTS標準】

標準品(85℃上限)の化学組成を調整し、125℃~150℃での連続使用に耐えるよう強化されたコーティングです。ポリイミドほどの耐熱性は不要だが、産業プラントの排熱や蒸気配管の温度監視(DTS)など、コストと性能のバランスが求められる中高温域センシングで標準的に採用されます。

HYT (Hytrel) 【ハイトレル:高強度・耐油】

ファイバーの外側に、熱可塑性エラストマー(Hytrel)の分厚いバッファ層(900μm等)を被せた、簡易ケーブル(タイトバッファ)仕様です。耐油性や耐摩耗性に優れており、コネクタ加工が容易なため、工場内の配線や、機械的強度が求められるハンドヘルド計測器のプローブ用として重宝されます。

A / 10A (Standard Acrylate) 【標準アクリレート:一般環境用】

特段の耐環境性表記がない場合(またはA表記)はこれにあたります。使用温度範囲は通常-40℃~+85℃。マイルドな環境での通信や、使い捨て用途のセンサー、または別途金属チューブに入れて保護する場合などに選定されます。コストパフォーマンスに最も優れます。


特殊光学特性(Special Optical Properties)

FTB (Flat Top Beam)

出力されるビームプロファイルが、山型(ガウシアン)ではなく、平坦な「フラットトップ(台形)」になるよう設計された特殊ファイバーです。均一な熱処理が必要な用途に最適です。

HIOH (High OH)

コアのOH基(水酸基)濃度を意図的に高くしたファイバーです。紫外~可視域における光の吸収(UV劣化)を抑える効果があり、短波長レーザーの伝送に使われます


最適な一本を見つけ出すために

型番は、エンジニアとメーカーを結ぶ「共通言語」です

これで、無機質な英数字の羅列だった型番が、意味を持った「仕様書」に見えてきたのではないでしょうか。
接頭辞で構造を知り、タイプで役割を読み解き、サフィックスで品質を見極める。このルールさえ知っていれば、
膨大なカタログの中から、あなたのプロジェクトに最適な一本を見つけ出すことは決して難しくありません。

しかし、ファイバー選定の奥深さはこれだけではありません。
実際のアプリケーションでは、ここに書ききれない微細なパラメータや、ロットごとの特性が影響することもあります。

「自分の用途に、この型番で本当に合っているだろうか?」 もし少しでも迷いが生じたら、私たちにご相談ください。
型番の向こう側にある技術的な背景まで踏み込み、最適なソリューションをご提案します。

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