音響光学素子(Acousto-Optics)について
目 次
- 1. Background
- 2-4. デジタル変調
- 2-1. 音響光学材選択
- 2-5. アナログ変調
- 2-2. 音響光学素子の構造
- 2-6. DC コントラスト比
- 2-3. AR コーティング
- 2-7. RF ドライバの構造
音響光学素子 (AO) について474KB
1. Background
音響光学素子は、レーザ装置内などで強度変調あ るいはビーム位置の電気的制御のために広く使 われています。
ここでは AO モジュレータの理論と 応用について解説します。
ある媒体内にレーザ光 線と音響波が存在するとき、すべての光学媒体において音響光学効果が起こります。
音響波が光学 媒体中に入ると、正弦グレーティングのように作用 するある屈折率を持った波が生じます。
入射レー ザ光はこのグレーティングを通過するとき、いくつかのオーダーに回折されます。
適切に素子を設計すれば、1次回折光線に最大効率を持たせること ができます。
この光線の偏向角度は音響周波数に対して比例するため、従って、高い周波数ほど偏向角は大きくなります。
λ は空気中での光の波長、fa は音響波周波数、Va は音響波速度、そして θ は0次光と1次光の間の角度です。
図1には、音響波とレーザビームの角度関係を示 しています。
回折光(偏向光)の強度は、音響波パ ワー (Pac) と、材質の性能示数 (M))、幾何学的 ファクタ (L/H) に比例し、
波長の二乗に反比例します(下式参照)。
音響光学素子では、ビームの偏向と強度変調が同 時に可能です。
加えて、レーザビーム周波数は、音響周波数と同じだけシフトします。
この周波数シフ トは、精確な位相情報が測定できるヘテロダイン検出のアプリケーションに使用できます。
2-1. 音響光学材選択
様々な音響光学媒体の選択は、波長(光学透過範囲)、偏光、パワー密度などのレーザパラメータにより決定します。
表1は Brimrose の AO モジュレータで最も使われている媒体の概要です。
可視および近赤外領域では、AOM は主にガリウムリン(Brimrose が最初に開発)、二酸化テルル、
インジウムリン(Brimrose が最初に開発)、カルコゲナイトガラス(Brimrose が最初に開発)、あるいは溶融石英が使用されます。
赤外領域では、ゲルマニウムが、変調器としては比較的性能示数が高いということで唯一商品化されています。
リチウムナイオベート、インジウムリンおよびガリウムリンは、高周波数 (GHz) の信号処理用素子として使用されています。
材質 | 波長範囲 | 偏光 | 最大CW レーザパワー (W/mm²) |
屈折率 | 音響モード | 音響速度 (km/sec) |
性能指数 x10-15 m²/W |
モジュレータ シリーズ |
カルコゲナイトガラス | 1.0‐2.2 | ランダム | 0.5 | 2.7 | L | 2.52 | 164 | AMM-0-0 |
フリントガラス SF6 | 0.45 - 2.0 | ランダム | 0.7 | 1.8 | L | 3.51 | 8 | FGM-0-0 |
溶融石英 | 0.2 - 4.5 | 直線 | >100 | 1.46 | L | 5.96 | 1.56 | FQM-0-0 |
ガリウムリン | 0.59 - 10.0 | 直線 | 5 | 3.3 | L | 6.3 | 44 | GPM-0-0 |
ゲルマニウム | 2.0 - 12.0 | 直線 | 2.5 | 4 | L | 5.5 | 180 | GEM-0-0 |
インジウムリン | 1.0 - 1.6 | 直線 | 5 | 3.3 | L | 5.1 | 80 | IPM-0-0 |
リチウムナイオベート | 0.6 - 4.5 | 直線 | 0.5 | 2.2 | L | 6.6 | 7 | LNM-0-0 |
リチウムナイオベート | 0.6 - 4.5 | 直線 | 0.5 | 2.2 | S | 3.6 | 15 | LNM-0-0 |
二酸化テルル | 0.4 - 5.0 | ランダム | 5 | 2.25 | L | 0.62 | 34 | TEM-0-0 |
二酸化テルル | 0.4 - 5.0 | 円 | 5 | 2.25 | S | 5.5 | 1000 | TEM-0-0 |
表1. Acousto-optic material characteristics.
2-2. 音響光学素子の構造
音響光学媒体として選択された結晶は光学研磨され、リチウムナイオベートのトランスデューサが
最先端技術を用いて金属圧縮接着されます。
Brimrose での金属接着技術は、エポキシ接着よりも非常に優れた音響カップリング性があります。
非常に高性能な金属接着剤のみ使用されています。
トランスデューサは、1GHz レベルの共振周波数までが入力できるよう加工されます。
2-3. AR コーティング
Brimrose では AO モジュレータに多層膜ブロード バンドコートあるいは V - コーティングを施します。
通常のロスは共振器外の使用で数%、共振器内のデバイスで 0.2% です。
2-4. デジタル変調
AO モジュレータの主たる性能パラメータは、伝搬時間 t によって第一に決まる変調スピードです。
伝搬時間 t と立ち上り時間 tr は以下の式で求められます。
速い変調スピードを得るためには、t はなるべく小 さい値にすべきです。
実際には、ビームは通常 AO モジュレータの相互作用領域内に集光されます。
音響波の拡がり角 Δ0 は、図2のように入射光すべ てが回折するよう光の拡がり角 ΔΦ に限りなく近 くするべきです。
AO モジュレータは、レーザビームを外部 TTL 信号により“ON”と“OFF”にするシャッタとして使うことができます。
TTL 信号はコンピュータ操作が簡単です。
on-off 信号をサポートするために、AOM の立ち上 がり時間はデジタル波形の伝搬に伴わなくてはな りません。
3つの代表的な音響光学媒質の立ち上 り時間 vs スポットサイズのプロットデータは図3の とおりです。
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図2. AOモジュレータへの集光 | 図3. 一般的なMTFカーブ |
2-5. アナログ変調
AO 変調器は非線形トランスファ関数を持ちます: 従って、アナログ変調システムとして使用する場合は注意が必要です。
変換関数を特徴化し、50 オームインピーダンスの入力ドライブボート内へ適切 な電圧を供給することが最も単純な制御です。
正弦変調には、トランスファ関数の線形領域の作動ポイントへバイアスを移動することが必要とされ、
多くの場合適切な立ち上がり時間を確保するためにビームを絞る必要があります。
変調トランスファ関数 (MTF) は次式の通りです。
fm は変調周波数です。典型的な MTF を図3に示し ます。ビデオ帯域幅は、MTF が 0.5 まで落下する周波数範囲 fm により定義されます。
ある fm での変調コントラスト比は以下の式から算出されます。
2-6. DC コントラスト比
ダイナミックコントラスト比は、変調周波数の増加により減少し、変調器の周波数応答は駆動中に劣化します。
DC コントラスト比は以下の式で定義されます。
I max = 測定最大レーザ強度であり、I min = 1次光に対する測定最小レーザ強度です。
DCの場合、I min は散乱光と変調器の駆動 RF のリークによって変調された光によるところが大きいです。
最適コントラスト比を得るために I max は最適でなければなりま せん。通常 DC コントラスト比は500~1000です。
2-7. RF ドライバの構造
RF ドライバは通常、入力調整が可能なインターフェイスをもつ RF 振動子及び振幅変調器、
及び AOM を作動する RF アンプから構成されます。
カタ ログ内に、詳しい変調器 / ドライバシステムの駆動の仕様が記述されています。
語句説明
AOBD | AO ビームディフレクタ |
D | 光学アパーチャ(m) |
ΔΦ | アパーチャ幅 D に対するコリメートレーザビームの拡がり |
λ | 光の波長(m) |
λFa | 全バンド幅(MHz) |
ΔT | アパーチャ時間(秒) |
p | レーザ光の Truncation ファクタ |
W | 1/e 強度点での集光ビーム径 |
a | ビームに関するパラメータ |
FL | レンズの焦点距離(m) |
Dfa /dt | 周波数変調レート |
M2 | 音響性能指数 |
Pac | 音響パワー(W) |
t | 変調したレーザ光の立ち上り時間(秒) |
DIA | レーザビーム径 |
MTF | 変調トランスファ関数 |
fm | 変調周波数 |
fo | 特性周波数 |
I max | 最大強度 |
I min | 最小強度 |
CR | コントラスト比 |
V Coat | 狭帯域反射防止コート |
θb | ブラッグ角 |
θ | 2θb=偏向角度 |
fa | 音響周波数(MHz) |
η | 変調器の回折効率 |
L | 相互作用の長さ |
H | トランスデューサの長さ |